シーン0 ロボ太郎通信



#1 夏のはじまり
ロボ太郎/通信
19:07
将洋君は無事にお祭り会場に到着しましたよ。
たくさんの屋台が出ていて、
とても楽しそうです🙂
写真を添付しました。
このあと、金魚すくいをやるみたいです。
心配いりませんからね。
ロボ太郎より
(添付写真:FEST_1907.jpg)
#2 少し寄り道
ロボ太郎/通信
19:36
将洋君が、射的で景品を取ってくれました!
ぬいぐるみを「ロボ太郎に」と言って、
渡してくれたんです。
とても嬉しかったみたいで、
照れながら笑っていました🙂
今は、かき氷を食べています。
舌が青くなっているのを、
少し気にしているみたいですよ。
ロボ太郎より
(添付写真:FEST_1936.jpg)
#3 予定ルートのご案内
ロボ太郎/通信
20:15
混雑が多くなってきたので、
予定していた北側ルートを避けて、
川沿いの遊歩道ルートで帰ります。
途中にコンビニで飲み物を買う予定です。
到着予定:21:12 ごろ
将洋君は少し疲れてきているみたいですが、
まだまだ元気ですよ!
安心してくださいね。
ロボ太郎より
(添付写真:ROUTE_2015.jpg)
※本通信はロボ太郎が自動生成した見守りレポートです。内容についてご不明な点があればサポートまでご連絡ください。
シーン1 夏祭り

祭りの喧騒が、川面に揺れていた。
将洋とロボ太郎は、人混みを抜けて、川沿いの遊歩道に出た。
風は少し冷たくて、提灯の光が水面に細く散っている。
将洋は、さっき買ったラムネの瓶を、嬉しそうに揺らしていた。
「ねえ」
将洋は、ふと思いついたように、ロボ太郎に話しかけた。
「ロボ太郎ってさ、今日、楽しそうだよね」
ロボ太郎は、すぐには答えなかった。
提灯の列が2人の影を薄く交差させていた。
川の向こうで、花火の音が一つ、遠くに上がった。
水面が、白く一瞬だけ震えた。
「……ロボ太郎も、夏祭り好きなんだね」
将洋は、前を向いたままそう言った。
ロボ太郎は、返事をしない。
けれど、歩く速さを変えなかった。
将洋の半歩うしろで、同じ景色を見ているように。
それから、長い年月が過ぎた。
将洋は大人になり、あの夜のことを、はっきり思い出す機会は少なくなっていた。けれど、夏祭りの提灯の光や、ラムネ瓶の音を聞くたびに、なぜか胸の奥が少しだけ温かくなった。
ロボ太郎はもう、家にはいなかった。いつの間にか古い機体になり、どこかの施設へ引き取られたと聞かされていた。それでも将洋の中では、ロボ太郎はただの家事ロボットではなかった。子供の頃、半歩うしろを歩いてくれた、口下手な友達だった。
シーン2 下取り

将洋は、家事ロボットのメーカーでテクニカルサポートの仕事をしている。
今日は、ショールームの相談カウンターで、旧型アンドロイドの下取りと新型コンシェルジュの案内をしている。
将洋:「それでは、下取りの流れについてご説明しますね。お持ち込みいただく旧型アンドロイドは、当社の基準で動作確認とデータ消去を行い、リサイクルまたは部品再利用へ回します」
夫:「ロボ太郎って、もうかなり旧い型ですよね」
将洋:「はい、初期のモデルになります。でもご安心ください。ノクティアは、ロボ太郎のシステム設計をベースに、安全性や外出時の対応、会話能力を大幅に進化させた次世代コンシェルジュです」
妻:「それなら、安心ねぇ。それにしても、ロボットも下取りがあるのねぇ。あの子には、本当にお世話になったわよね」
将洋:「はい、長く一緒に過ごされたご家族も多いので、そう言っていただけると嬉しいです。僕も、昔はお世話になりました」
夫:「はは、じゃあ新しい子にも期待していいかな」
将洋:「きっとご満足いただけると思います。生活のサポートはもちろん、お出かけの同行や案内、会話の自然さは別格です!」
妻:「楽しみだわ。あの子にも、きちんとお別れしなくちゃね」
将洋:「はい、最後まで大切に対応させていただきます」
さらに数年が過ぎた。
仕事に慣れ、毎日の忙しさに追われるうちに、将洋は自分の人生の新しい節目を迎えていた。今日は、彼自身の披露宴だった。
招待状を書いているとき、将洋は一人だけ、宛先を書けない相手のことを思い出していた。名前は浮かぶ。けれど、住所は分からない。それでも、心のどこかで思っていた。
来られなくてもいい。どこかで、覚えていてくれたら。
シーン3 披露宴

披露宴の中盤、スクリーンに新郎の幼い頃の写真が映し出された。
運動会のかけっこ。
祖父母の家の縁側。
夏祭りの川沿い。
懐かしい時間が、静かに流れていく。
その一枚の右端に、ロボットの姿が写っていた。
白くて、無機質で、でもどこか優しげな目をしたロボット。
その右下には、小さくこう記されていた。
――ロボ太郎
将洋は、思わず小さくつぶやいた。
「……ありがとう」
隣で座っていた新婦が、首をかしげる。
「どうしたの?」
将洋は、少し照れたように笑って答えた。
「子供の頃、よく一緒にいた友人がいてさ。シャイで、口下手なやつで、きっと今日は来られないと思うんだけど……昔の写真を送ってくれたんだ」
新婦は、静かにうなずいた。
「そっか。素敵な友人ね」
シーン4 預かり物
披露宴が終わる頃には、窓の外はすっかり夜になっていた。
将洋は、控室に忘れ物がないか確認していた。
花束の匂い。
片付け途中のグラス。
遠くで笑うスタッフの声。
さっきまで賑やかだった空間が、少しずつ現実へ戻っていく。
その時、ドアが軽くノックされた。
「新郎様」
式場スタッフの女性が、小さな端末を抱えて立っていた。
「こちら、お預かり物です」
将洋は首をかしげた。
「預かり物?」
「はい。披露宴の前に、受付へ届けられていたみたいで……」
スタッフは、少し困ったように笑う。
「確認が遅くなってしまって、申し訳ありません」
将洋は端末を受け取った。
古い型だった。
少し黄ばんだ白い外装。
擦り傷。
見覚えのある、丸みを帯びたデザイン。
将洋の指が、ほんの少し止まる。
「届けた方のお名前、分かりますか」
スタッフは、記憶を探すように目を細めた。
「えっと……白い案内用ロボットの方でした」
将洋は、何も言わなかった。
スタッフは続ける。
「最近の機体じゃないと思うんですけど……すごく丁寧にお辞儀する子で」
「“これを渡してください” って」
控室が静かになる。
遠くで、食器の触れ合う音だけがした。
将洋は、ゆっくり端末の画面を開く。
そこには、古い写真データが入っていた。
夏祭り。
川沿い。
提灯。
ラムネ瓶。
そして、子供の頃の将洋の隣で、少しぎこちなく立っているロボ太郎。
写真の右下には、小さな時刻ログが残っていた。
20:41
将洋は、小さく息を吐いた。
それから、少しだけ笑った。
「……シャイで、口下手な奴なんです」
スタッフは、よく分からないまま、静かに会釈した。
控室の外では、夏の夜風が、まだカーテンを揺らしていた。